[DTM] 前に作った曲をマスタリングし直して聴きやすくする [ゲーム開発ログ 2020-12-05]

2020-12-05

前に作った曲を聴き直す

少し前に、ゲームの BGM 用の曲を作った:

週末にガッと作った曲で、作った当時はまあこんなもんでいいかと思っていたのだが、 今になって聴き直してみると 全体的に音が微妙 だった。 曲調がどうこうではなく、マスタリングがちゃんと出来てなくて音の抜けが悪く、聴きにくい感じ。 この分野はアマチュアなのでうまく説明できないが、聴いていて息苦しい感じの素人くさい仕上がりの音になっていた。

曲もプログラムもゲームの仕様書も、作ってから少しの時間を置くと足りない部分とか、手直ししたい部分が見えてくる。 人の思想や価値観は日々変化するもので、一月も経てばそれを作ったのはもはや自分とはちょっと別の個体と言ってもいいくらいなので、 客観的な視点で自分の作品を見られるようになるのかもしれない。

もうちょっとちゃんとマスタリングし直す

当時の音源は、曲を作った後に適当に音量調整をして出力しただけの雑なものだった。 これをマスタリングし直そうと思う。

【マスタリングとは】

  • 録音による音楽作品制作において、ミキシングして作られた2トラック音源(トラックダウン音源、または2ミックス音源)を、イコライザーとコンプレッサー、その他のオーディオ・エフェクト機器を用いて加工し、CDやDVDやBD、インターネット上の投稿サイトといった最終的なメディアに書き出すために、音量や音質、音圧を調整すること。 (マスタリング - Wikipedia

DTM を始めた人がぶつかる壁のひとつに 「なんか出力した曲がプロの曲と比べて圧倒的にショボい」 というのがある。 わかりやすいのが 「音量が小さい」 というもので、多くの人が最初は 「DTM 音 小さい」 とかでググると思う。

で、そうすると マキシマイザー やら コンプレッサー やら リミッター みたいなものをかけて音圧を上げてやるんですよ、みたいな話が出てくるので、 音圧ってよくわからないけどきっとああいうものかな、という BLEACH 読んでて初めて霊圧って言葉が出てきたときのような気持ち になりながら色々なサイトを見て雰囲気で対応していく。

で、そうするとたしかに音量は前よりも上がるんだけど、今度は

  • すぐ 音割れ する
  • なんかうまく言えないけど 音がぼわぼわ してる
  • なんかうまく言えないけど音が息苦しくて聴いていて疲れる
  • 聴こえてほしい音が埋もれてしまう(音の抜けが悪い)

みたいな感じの音になってしまう。

僕が学生の頃(10 年以上前)に DTM をやっていた時は今と比べてインターネット上の有用な情報も少なかったので (あとお金が無くて PC やソフトもショボかったので) 大体このあたりで「DTM わからん」と挫折してしまっていた。

が、今は以前より創作の環境も良くなっているし、 なんなら一度音の仕事をプロでやっている友人に話を聞いたこともあって、 ここから先はこういうことをやるんだよ、みたいなことも知識ベースで知ってはいる。

後は細かいことを調べつつ、試しつつ、手を動かすだけなのだ。 マスタリングはずっと苦手意識があったが、やらねば苦手は克服できない。今こそやろう。

被っている周波数帯を削る

プロの人は色々と高度なことをやっているんだと思うが、 マスタリングで肝要なことはどうやら 「周波数を調整する」 ということらしい。

高い音や低い音、楽器の音色などによって使われる周波数帯は異なる。 違う周波数帯の音は同時に鳴っても聞き取りやすいが、同じ周波数帯の音が鳴ると音が飽和して聞き分けが難しくなる。 周波数帯というのは音楽にとって有限のリソースであり、マスタリングにおいては

  • 「ここはこいつが主役だからこの辺の周波数を主役に譲ってやる」
  • 「こいつのこの辺は不要だからカット、この辺の周波数は目立たせたいからちょっと上げる」

みたいな調整をするのだ。

で、実際どの辺の周波数が被ってるんだという話になるが、 僕はエンジニアなので人間の感覚よりも機械が計測する数値を信じている。 僕は現在 DAW ソフトに Logic Pro を使っているが、 Logic ではこの辺の可視化は MultiMeter というプラグインを差してやると実際の周波数帯や左右の位相が見られるらしい。

下図の左上のほうにあるウインドウが MultiMeter だ:

で、中音域(500 〜 1 kHz)あたりが多くて山なりになっていたので、 このあたりを減らす(主役以外のこの周波数帯を下げる)ことを目標に、 各パートにイコライザを差して周波数を調整していく。

イコライザで範囲を細かく絞って極端に上げたり下げたりすると、 「あーこの楽器ではこの辺の音に影響するのね」ということがわかるので、 お前はここの成分はいらんやろ、 みたいな感覚で削っていく。

素人なりに作業していて思ったのは、やはり

  • 各パートの主役が誰かを決めて、主役に周波数帯の座を譲る

ことが大事らしいということだ。 各音のパートを単体で聴いたときに単品では綺麗に響いていても、 複数のパートが同じ周波数帯を取り合うと結果的に音が埋もれてしまう。 聴いた時の感覚も 「音がぎゅうぎゅうになってる」 という表現が近い。 勇気を持って引き算することが必要だ。

周波数帯を機械的に調整できない生演奏のオーケストラとか、 よくうまくまとめ上げてるよな… などと考えながら作業をした。


ということで、元の自分の曲や、世のプロの曲などと何度も音を聴き比べながら調整を終えた。 周波数帯以外にも細かいベロシティの調整をしたり、軽くリバーブを差して印象を変えたりもした。

MultiMeter の変化は(なんとなくだが)こんな感じ:


調整前。中音域の重なりが多く 500 〜 1 kHz あたりが山なり

調整後。前より少しなだからになった感

調整後の完成品

聴き比べられるように、初回バージョンと今回調整したものを並べてみる。 良いスピーカー環境や、ヘッドホンなどをして聴くと違いがわかりやすいかと思う。

まずは調整前がこちら:

調整後がこちらだ:

まあ人によっては違いが気にならない人もいるかもしれないが、作っている本人としては結構明確な改善を感じている。

飲み物で言うと前はもったりしていたけど、調整後はすっきり飲みやすくなりました、といった感じ。


別の曲も調整した。こちらが調整前:

調整後:

こもった感じが減って、各パートの音の粒がわかりやすくなったと自分では思っているが、違いが感じられるだろうか。



マスタリングを(以前よりは)ちゃんとやったことで、DTM のことが少しわかった気がする。 DTM、もっと言えば音楽は単体でめちゃくちゃ奥が深い分野なので、ゲームの曲まで自作していると時間がかかってしまうが、 趣味開発なので許されたい。好きだから作るのだ。

さあ、次はオーディオをいい感じに再生・制御するプログラムを書こう。